珊瑚もナワラトナ(navaratna, インド占星術で用いられる惑星+衛星7つ+影の惑星2つ、つまり太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星、ラーフ、ケートゥに対応した9種類の宝石のこと)の一つで火星に対応していると言われています。
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【和名】
血赤珊瑚
【英名】
Red coral
【ラテン語名】
Corallium rubrum
【サンスクリット語異名】
アブディジャントゥヴィシェーショータ(Abdhijantuviśeṣotha)
アンビディワルラバ(Ambhidhivallabha)
アンボーディパルラワ(Ambhodhipallava)
アンガラカ マニ(Angaraka mani)
バウマラトナ(Bhaumaratna)
ラターマニ(Latāmaṇi)
ラクタデーハ(Raktadeha)
ラクターンガ(Raktāṅga)
ラクターンクラ(Raktāṅkura)
プラワーラ(Pravāla)
プラワーラカ(Pravālaka)
ヴィドルマ(Vidruma)
【ラサシャーストラ分類】
ラトナーニ(Ratnāni, 宝石類)
【元素記号】
CaCO3(炭酸カルシウムが主成分)
【化学組成】
炭酸カルシウム…87%
炭酸マグネシウム…3%
シリカ…2%
鉄…微量
酸化マグネシウム…微量
有機物および水分…8%
【モース硬度】
3.5
【比重】
2.6
【色】
主に赤珊瑚と白珊瑚があるが、あらゆる作用で白は赤に劣る。
【タイプ】
- 色による分類
色で分けると4種類ある。中でも赤が最上である。
1. 白珊瑚
2. 灰色珊瑚
3. 黒珊瑚
4. 赤あるいは薔薇色珊瑚
B. 部位による分類
どちらも性質としては変わらない。
1. プラワーラムーラ(原木の根本に近い部分)
2. プラワーラカンダ(樹枝状のサンゴの枝の部分)
C. 色と宗教による分類
1. ブラーミン:兎の血のように赤く、

柔らかく滑らかで美しい。穴を開けやすい。
ちなみに最上のブルーサファイアの色がコーンフラワーブルー(矢車菊の青)、最上のルビーの色がピジョンブラッド(鳩の血)に例えられるのに対し、血赤珊瑚はオックスブラッド(去勢された雄牛の血)と称されます。

真紅というよりは少し茶色味というか小豆色がかった濃い赤のことですね。ラサシャーストラ的には兎の血色が極上のようです。
2. クシャトリヤ:ジャパーの花(ハイビスカス)や

バンドゥーカの花や

柘榴のような色

をしているが滑らかではなく、穴は開けづらい。
3. バイシャ: パータラ (Steriospermum suaveolens)や

パラーシャ (Butea frondasa)に似ており、

濃い赤だが光沢がなく、滑らかである(クリーム色、オレンジ、といった「赤くない」珊瑚のことと思われます)。
4. シュードラ:色はピンク色の蓮の花で固く艶があるが容易には貫通できない。
【選品(Grāhyatā & Agrāhyatā)】
熟れたBimbi phala (Coccinia indica, ivy gourdのこと)↓

のように見えて(つまりここでも血のように赤い珊瑚が良しとされています)、丸いか卵形で、曲がっていたり傷んだ穴がなく、触れると滑らかで大きいものがプラワーラとしては良品である。(R.R.S. 4/17)
また、薄く、くすんだ色をしていて触れるとザラザラしていて傷んだような点や穴があり、軽くて白いプラワーラは廃棄すべきである。
「ブラーミン」に分類される珊瑚は全てのカーストの人に適していて、また良い結果をもたらす。珊瑚はクジャ(Kuja)、水星に良い(ジョーティッシュでは火星を反映するらしいですが)。
【珊瑚の浄化法(ショーダナ)】
ドーラーヤントラ(壺に液体を入れて壺に渡した木の棒から浄化したい物質を布で包んで糸で吊り下げて下から加熱して煮る方法とその装置一式を言う)↓

にプラーワラを入れ、ジャヤンティ(agmimantha, Clerodendron phlomidisの別名)の葉の新鮮な搾り汁を入れて3時間煮る。ジャヤンティの葉の搾り汁の代わりにタンドゥリーヤカ(ハマビユ、Amaranthus spinosus)の搾り汁やサルジャクシャーラを16倍の水に入れた水溶液を用いても良い。(Rasa taraṅgiṇi 23/131-133)
【珊瑚の灰化(マーラナ)法】
- 浄化されたプラーワラをアロエヴェラの葉の搾り汁と共に擦って微細な粉末とし、小さな貨幣状の形に成形する。それらを土器の皿に並べ、同じ土器を蓋のように被せてから境界を泥を塗った包帯で巻いて乾かし、密封する。この土器の皿を焼却し、このプタを3度繰り返すとプラーワラは白く柔らかな灰化物となる(Rasa taraṅgiṇi23/134-135)
- 浄化されたプラーワラを牛乳と共に擦って微細な粉末とし、コインの形に成形する。乾燥させてから上述のように土製の皿2枚で挟んで泥を塗った包帯で間を密封しプタを行う(Rasa taraṅgiṇi 23/136)
- 浄化されたプラーワラは新鮮なジャヤンティ(アグニマンタの別名)の葉の搾り汁と共に擦って微細な粉末とし、チャクリカ(丸く小さなコイン状の形のこと。ごく低い円柱とも言えましょう)を形成する。乾かし、上記同様土製の皿2枚で挟んで泥を塗った包帯を巻いて密封し、プタを行う(この一連の工程を「シャラーワサンプタ」といいます。シャラーワは土製のお皿の意味です)。こんな感じ。↓

するとバスマ(灰化物)になる。(Rasa taraṅgiṇi 23/137)
4. 1)2)3)同様の工程をシャターヴァリーの根の搾り汁を用いて行うと上質のバスマが出来る。(Rasa taraṅgiṇi 23/138)
【チャンドラ プティー プラワーラ ピシュティ(Candra puṭī pravāla piṣṭi)】
鉱物薬学(ラサシャーストラ)基本用語集(https://arhattamabharadvaja.blog/archives/150)のピシュティ、微細粉末薬の項で述べた通り、原料である貴石類は灰化物にするのに失敗すると高く尽きますし、灰化物にするにも燃料などお金と時間、手間暇がかかります。何より珊瑚や真珠といった海の中で育つ宝石は暑いインドでは貴重な冷性の性質を持つので、上述のようにバスマにするよりはピシュティとして用いられることが多いです(じゃあ何で同じ海育ちなのに魚肉は熱性なんだという疑問に答えてくれたアーユルヴェーダドクターは居ない)。
浄化し終えた珊瑚をきめ細かな粉末にし、滑らかな岩で作られたすり鉢とすりこぎでローズウォーターを加えながら月光の下で(つまり夜間に)21日間擦って作られるものをチャンドラ・プティー・プラワーラ・ピシュティと言い、他の宝石におけるバスマのように扱われます。
実際は、冷性の素材を、冷性尽くし(月光も薔薇の花びらを蒸留して得られたローズウォーターも冷性です)で作成されているためバスマよりもピッタのひどい悪化ですとか、熱性の強い疾患の治療に用いられます。
【珊瑚のバスマの性質】
ラサ(味):甘、腐食性
グナ(性質):軽
ヴィールヤ(効力):冷性
ドーシャカルマ: トリドーシャを緩和、ことにカファとワータ
【カルマ(作用)】
消化力向上(Dīpana)
アーマ燃焼作用(Pācana)
体力向上(Balya)
解毒作用(Viṣaghna)
顔色を良くする(Varnya)
オージャス増加(Ojovivardhana、免疫増強)
催淫作用(Vṛṣya)
味覚向上(Rucikara)
栄養を良くする(Puṣṭikara)
悪霊退散(Bhūta nāṣana=bhūtādi śamana)(幽霊、悪魔、生き霊など見えない悪い存在ばかりでなく細菌、ウイルス、真菌などの目に見えない微生物を指すこともある)
成長促進作用(kāntikara)
祝福を与える(Maṅgala dāyaka)
惑星の悪影響を減ずる(grahadoṣahara)(ジョーティッシュにおいてグラハは天体や惑星を指し、ドーシャは苦しみや悪影響を意味します。 特定の惑星が凶星(土星、ラーフ、火星など)の影響を受けたり、個人の出生図にうまく配置されなかったりすると、グラハ・ドーシャにつながり、キャリア、人間関係、健康、経済など、生命のさまざまな側面に影響を与える可能性がある。珊瑚はこの悪影響を減じる働きがある。)
目に良い(Cakṣỵa)
【適応】
肺結核(rājayakṣmā, kṣaya, kṣata)
咳嗽(kāsa)
多汗(atisveda)
寝汗(ratrik swedavaha vyadhi)
眼病(dṛṣṭiroga)
手に負えない中毒性疾患(durnivāra viṣajaroga)
(惑星の悪影響による)精神病(Bhūtonmāda)
[火星の悪影響による疾患]
・出血性疾患(raktapitta)
・痔瘻(Bhagandara)
・ラクタダートゥの悪化(Raktaduṣṭi)
・白癬感染症(Dadruroga)
・多尿症候群(Prameha)
・水疱性皮膚疾患(Visphoṭa)
・感染を伴う潰瘍/褥瘡(Duṣṭa vraṇa)
・骨折(Asthi bhanga)
・血性帯下(Raktasrāva)
・痔疾(Arśa)
・火に対する恐怖(agnijanyabhaya、火事のトラウマなど?)
【用量、用法】
これが各本でわりと割れました。
50-200mg (by Prof. Himasagara Chandra Murthy)
31〜125mg(by Dr. Bharti Umrethia, Dr. Bharat Kalsariya)
250〜500mg(by Dr. Damodar Joshi)
250mg(by Dr.K. Rama Chandra Reddy)
240〜480mg(by Dr. Vilas Dole & Dr. Prakash Paranjpe)
うちのラサシャーストラの先生イチオシの、大御所らしいJoshi先生の説を採用することにして、ここでは250〜500mgということにしますがもっと少なめの本もありますので、200mgならまあ、消化力のある人なら大抵大丈夫なのではないでしょうか。
【アヌパーナ】
蜂蜜(カファ性疾患に対して用いる場合)、米の研ぎ汁(カファ性の尿閉に対し用いる場合)
牛乳や砂糖入り牛乳(ピッタ性疾患に対して用いる場合)
基本的に腐食性があるため胃の粘膜保護に蜂蜜ないし牛乳としっかり混ぜてから服用する。
【代表的処方と主な適応】
プラワーラ パンチャームルタ(Pravāla pañcāmṛta)・腹部膨満、腹水、咳嗽、心不全、下痢、尿路結石等
ジャワーハラ モーハラ ワティ(Javāhara mohara vati)・認知症、精神ストレス、老化、心不全
カーマドゥダー ラサ(Kāmadudhā rasa)・出血性疾患、呑酸症、白色帯下
【臨床小話】
プラーワラ、珊瑚は冷性なので暑い国に留学していたピッタ体質のわたしには良く処方された鉱物薬です。プラーワラパンチャームルタは、一度パンチャカルマ(浄化療法)後にサダナンダ先生に処方されました。牛乳と飲むように。とのことで、牛乳の配達を頼んでいなかったので、暑い中大学の牛舎の牛乳を買いに行きました。買えなかった日は学食に出掛けて、ホットミルクやチャイで飲んでいました(当時は学食のチャイは牛舎の牛乳を使っていると信じていたので)。すると驚いたことに、肌と髪がツルツルうるうるサラスベになって、とても綺麗に若返った感じがあって鏡を見るのが楽しくなったくらいでした。浄化療法後の薬って本当によく効くなあ。と驚き、珊瑚や真珠入りの処方が大好きになりました。カーマドゥダーは、灼熱感(ダーハ)とか呑酸症(アムラピッタ)とかピッタ性の下痢(ピッタジャアティサーラ)やコータ、シータピッタ(痒みを伴う発疹)といったピッタ悪化による諸症状によく効くので、わたしがインドにいる間最も頻回に処方されたと言っても過言ではありません。真珠の灰入りのものはより高価になります。
参考文献)
1)A Text Book of Rasashastra by Dr. Vilas Dole & Dr. Prakash Paranjpe
2)RASA ŚĀSTRA by Damodar Joshi
3)A Text Book of Rasashastra (THE MYSTICAL SCIENCE OF ALCHEMY)
by Dr. Bharti Umethia & Dr. Bharat Kalsariya
4)RASAŚĀSTRA THE MERCURIAL SYSTEM by Prof. Himasagara Chandra Murthy
