スワルナ(svarṇa, 金)(改)

金のインド神話における起源は、アグニ神が七人の仙人達の若く美しい妻達を見て興奮して射精した精液が黄金になった…そうです。金や炎を見る目が冷ややかになりそうですね。なんでインド神話はエロくて生々しい、こんなのばかりなのでしょうか。ちなみにシヴァ神の精液は水銀の起源です。

水晶が母岩の美しい自然金↓

【和名】

 金(きん)、黄金(おうごん)、こがね、くがね

【英名】

Gold

【ラテン語】

Aurum

【サンスクリット語の異名】

アグニビージャ(agnibīja)

アグニワルナ(agnivarṇa)

アグニヴィルヤ(agnivirya)

バルマ(bharma)

ブルンガーラ(bhṛṅgāra)

ブーシャナルハ(bhūṣaṇarha)

チャーミーカラ(cāmīkara)

チャーンペーヤカ(cāṃpeyaka)

ドラヴィナ(draviṇa)

ガーンゲーヤ(gāṅgeya)

ハータカ(hātaka)

へーマ(hema)

ヒランヤ(hiraṇya)

ジャーンバワ(jāṃbava)

ジャータルーパ(jātarūpa)

カエールタ(kaerta)

カラダウタ(kaladhauta)

カルヤーナカ(kalyāṇaka)

カナカ(kanaka)

カーンチャナ(kāñcana)

ローハワラ(lohavara)

マーンガルヤカ(māṅgalyaka)

ルクマ(rukma)

スワルナ(suvarṇa)

【ラサシャーストラ分類】

ダートゥワルガ(金属類)

【元素記号】

 Au

【原子番号】

79

【原子量】

196.967

【モース硬度】

2.5〜3

【比重】

19.3 (20℃)

【融点】

1063℃

【沸点】

2966℃

【金のショーダナ(浄化法)】

1) 1カルシャ(12g)の金を叩いて伸ばして金箔にし、そこへガイリカ(赤鉄鉱)の粉末と岩塩をペーストにして塗る。乾燥してから土で出来た皿の上に載せて半ヤーマ(1.5時間)熱すると浄化される。(ラサラトナサムッチャヤの手法)

2)るつぼに金を入れて融けるまで熱してからカーンチャナーラ(Bauhinia variegate)の葉の煎じ液に注ぐ(ダーラナ)。これを3回繰り返すと金は浄化される(ヨーガラトナーカラの手法)

【金のマーラナ(灰化)】

  • 金を細かい粉末にしてそこへ同量の亜ヒ酸[As(OH)3、サンスクリットでマルラという]を加え、カーンチャナーラの搾り汁やトゥルシーの搾り汁を加えて擦る(←バーワナーです)。この塊を丸くコイン状に加工して乾かし、プタを行う(黒焼きです。特に何のプタとは指定されていませんが金は柔らかい金属なので小さめのプタとなります)。二度目のプタで塊の量は4分の1になる。この工程を10回繰り返すと金のバスマが得られる。
  • 金箔に水銀のバスマとレモン汁を塗ってプタを行う。10回この工程を繰り返すと金のバスマが得られる(ラサラトナサムッチャヤ5/15)。

※金を灰化するのにヒ素だの水銀だの普通に毒性のある金属の名前が出てくるので眉を顰める方も有毒なんじゃないかと懸念される方もいらっしゃると思いますが、別項の「ラサシャーストラ基本用語集」で書きました通り、バスマの定義でも出てきましたがもう「元の金属には戻らない」のがバスマなので、次の成分分析でも出てきますが、作成途中で使われるこういった毒性のある金属は完成した金の灰(バスマ)からは検出されないのが普通なので、用法容量を守れば安全に内服できます。

長年在学しましたがたった一度しか出会わなかったうちの大学で作ったスワルナバスマ。↓

非常に手間と時間がかかるせいか、わずか100mgで1060ルピーもしました。(今日のレートで1815円)。2020年から10年も持ちます。純粋に植物だけの処方だと持って5年とかで大抵2年以内です。色は金色を失っているのがお分かりいただけると思います。淡いオレンジ色ですね。

【金のバスマの化学分析】

金96.76%

シリカ 1.14%

リン酸 0.781%

酸化カルシウム 0.546%

水 0.244%

炭酸カリウム0.161%

硫黄 0.15%

鉄 0.14%

塩化ナトリウム0.078%

銅 測定値限界未満

酸化マグネシウム 測定値限界未満

【特質】

ラサ(味):甘渋

グナ(性質):油軽

ヴィールヤ(効力):冷性

ヴィパーカ(消化後味):甘

ドーシャカルマ:トリドーシャを緩和する

作用ダートゥ: ラサ、ラクタ、マーンサ、シュクラ

作用臓器: 全身、ことに神経系、肺、心、心臓、血管、眼、小腸、大腸、卵巣、精巣

【カルマ(作用)】

寿命伸長作用(Āyuṣkara)

老化遅延作用(Praśamitajara)

若返り作用(Rasayana)

免疫増強(オージャスを増す)(Ojovivardhana)

浄化作用(Pavitra)

幸運にする(Śivatarakara)

罪を消す(Pāpaghna)

喜びを与える(Sukhakara)

健脳作用(Medhya)

記憶力向上(Smṛti vardhana)

声を良くする(Kāntikara)

目に良い(Cakṣuṣya)

髪に良い(Keṣya)

発音を良くする(Vāk viśuddhikara)

味覚向上(Rucikara)

健康を保つ(Sthira-vayaskara)

全ての病気を治す(Deharoga pramāthī)

体力向上(Balya)

消化力向上(Dīpana)

アーマ燃焼(Āmapācana)

抗結核作用(Rajayakṣmaghna)

強心・心保護作用(Hṛdya)

顔色を良くする(Varṇya)

筋量増加(Bṛmhaṇa)

掻爬/減量作用(Lekhana)

豊満にする(Puṣṭipradāyī)

(悪魔憑きのような)狂乱状態を鎮める(Bhūtāveśa-praśāntikara)

増精作用(Vṛṣya)

男児を得やすくする(Puṃsavana)

解毒作用(Viṣaghna)

抗微生物作用(Bhūtaghna)

【適応】

若返り

ワータ性疾患

精神異常

消化力低下

嘔吐

食欲不振

結核

咳嗽

衰弱

消耗性疾患

発熱

貧血

心不全

筋萎縮

灼熱感

多尿症候群

不妊症

中毒

悪魔から生じる病気(Pāpajaroga)

加齢に伴う病気(Jarāroga)

トリドーシャ性疾患

過去世ないし過去において犯した罪によって起きる病気(Daivakrita roga)

【用量】

ラサタランギニーによると15−30mg /日

実用的には、

成人:15mgから開始し30mgまで増量可能。

小児:

5歳未満…5mg /日

5歳以上10歳未満…10mg /日

10歳以上16歳未満…15mg /日

【禁忌】

ラサジャラニディ(鉱物薬学の大海、みたいな意味だそうです)というラサシャーストラの本だけが、金のバスマを使用している間はビルワの実を摂取してはならない。と戒めていますがその理由は書かれていません。

ただ、有名な処方であるスワルナスタシェーカララサには金のバスマとビルワが原材料として用いられています。

 また、三大古典書の一つであるアシュタンガ・サングラハの補完編というか後編とも言うべきウッタラタントラの49章は若返り療法に使われる処方について書かれている章なのですが、この60条が金のバスマを使った処方群について書かれていて、「金とビルワとワチャーとギーを混ぜて一緒に飲むと頭が良くなり長寿になり顔色が良くなり金持ちになり良く栄養される」と書かれていることから、そんなに神経質にならなくても良いのかもしれません。

 ただ、高熱を発している肺結核患者には金の殺菌作用の為に血中が破壊された結核菌などの毒素で汚れて高熱が続く元になるので用法用量には注意を要するようです(せいぜい1,2mgに留めるべき)。

【アヌパーナ】

体力を向上させたい場合と肺結核に対して:牛乳と

若返らせたい場合:ギーと

灼熱感がある場合:砂糖または魚の胆汁と

精力増進したい場合:ブリンガラージャの搾り汁と

記憶力を増したい場合:ワチャーの粉末と

眼の病気に用いる場合:プナルナワーと

艶と輝きのある皮膚にしたい場合:サフランと

解毒に用いる場合:アティビシャ(Aconitum heterophyllum)と

トリドーシャ性精神異常に用いる場合:乾姜、クローブ、黒胡椒と

呑酸症(アムラピッタ)に用いる場合:アーマラキーの粉末と

慢性熱に用いる場合:アブラカ(雲母)のバスマと非加熱蜂蜜と

過敏性腸症候群に用いる場合:ラサパルパティーと

てんかんやヒステリーに用いる場合:シンドゥーラ、雲母、シャンカプシュピーと

振戦麻痺に対して:ラサシンドゥーラとバラーの煎じ液と

嗄声に対して:ぶどう、長胡椒、カトファラ(Myrica nagi)、甘草と

女性をより美しくするには:赤サンダルウッド、サフラン、黒い蓮、甘草、氷砂糖、マンジシュターと

一緒に飲むと良い。

・純金を非加熱蜂蜜または牛乳と共に擦ってから飲むと体の解毒に良い。

この純金擦り下ろし蜂蜜または牛乳は目に良く妊娠を安定させ、ピッタドーシャの異常を緩和し弱った心臓にも良い。他の薬に加えるとその薬効を高めもする。

・純金のバスマが手に入らない場合、代替法としては純金(24金が望ましい)のアクセサリーまたは金塊を糸で縛り、他端を棒に結びつける。

棒を鍋の上に乗せ、1リットル程度の水を入れます。ちょうどこのドーラヤントラのようなイメージです。

小袋に入れないで直に糸で縛って棒にくくりつけて糸を垂らし、水面から出ないように、尚且つ鍋肌や鍋底に金が触れないように位置を調整して水が半量になるまで煮詰めます。消化力が落ちている場合は4分の1まで煮詰めるとより一層消化力を強めてくれます。

これをスワルナシッダジャラと言い、若返り以外の金のバスマの全ての性質を持っている(もちろん記憶力増強にも良い)ので飲用すると良いです。ただ、禁忌にあるようにビルワの実を原料に含む処方を服用している場合は除きます。

【代表的処方と主な適応】

ブリハットチンタマニーラサ(Bṛhatcintamanī rasa)・狭心症、うつ病、認知症、神経痛、リウマチ

スワルナスタシェーカララサ(Suvarnasutaśekhara rasa)・呑酸症(アムラピッタ)、嘔気嘔吐、蕁麻疹

スワルナマーリニーワサンタラサ(Suvarnamālinīvasanta rasa)・甲状腺腫、慢性熱、結核、心臓病、肝臓病、脾腫

(スワルナ)サミーラパンナガラサ((Suvarna)samīrapannaga rasa)・慢性熱、喘息、慢性に経過する関節痛など

ワサンタクスマカララサ(Vasanta kusumakara rasa)・認知症、糖尿病、腎臓病など

マハームルガーンカラサ(Mahāmṛgāṅka rasa)・腹部腫瘤(グルマ)、膿瘍、喘息、肺結核

【ヒルデガルトの宝石療法】

使用形態)

金粉と棒金

適応症)

  1. アレルギー、胃の不調による熱症状、胃粘膜の炎症、発疹、リウマチの悪化、粘液性カタル、薬のアレルギーや副作用、抗生物質の副作用に

250ccのワインに金メッキされた投込型ヒーターを入れて沸かし、温かいうちに飲む。ゴールドをホットプレートなどで加熱してからワインに入れる方法もある。

温めてたびたび飲んでいると、胃腸が感染して引き起こされるアレルギー症状やリウマチの悪化にも効果がある。この場合は必ずしも皮膚病という症状として現れる訳ではないが皮膚病のほとんどは似たような状況が原因で引き起こされます。

  • 自己免疫疾患、とくにリウマチ、多発性関節炎の時や、現代医学では治らないと診断されたあとの変化に

1,2gの金粉とスペルト小麦大匙1杯を混ぜて、少量の水を加えてこねたら生地を二等分する。半分は生の状態で朝食前に摂る。残り半分は焼いてクッキーにする。細かく分散した金粉は腸に留まり、数ヶ月かかって完全に排出される。金粉は腸内フローラに働きかけ、体を害することなく免疫システムを落ち着かせてくれる。ゴールドは王水にしか溶けないので体に吸収されることはない。この点で、ヒルデガルトの療法は体内で溶ける金塩を用いる現代医学の金療法と異なる。特に重いリウマチの痛みには短期間のヒルデガルトの金療法が効果的である。半年から1年おいてまた行うこともできる。

【臨床小話】

わたしの初の鉱物薬との邂逅は金のバスマが原材料に入っている、スワルナスタシェーカララサでした。

グジャラートアーユルヴェーダ大学からBSDTアーユルヴェーダ大学に転校した2年生の時は、女子寮があったのですがグジャラートと違って個室ではなかったので、当初はプネー市内でホテル住まいをしていました。

なかなか良いアパートがなくてアパートに出るまで時間がかかったり、契約を終えても警察の外国人登録に時間がかかってなかなか「合法的に滞在している外国人ですよ」の証明書が貰えず、家賃だけ取られて部屋の鍵をもらえない、という理不尽にカッカしたり、その間ホテルや学食の辛い食事を食べざるを得なかったせいでピッタがとても悪化しました。

 当時は今より無知だったので、バカの一つ覚えで、消化力を上げるなら母指頭大の生姜に岩塩振ったスライスを食べたら良いんだよね!と秋に、ピッタ体質のわたしが、イライラカッカしながら、熱性の消化力向上薬を飲んでいたせいで熱性の役満(?)状態で胃にアーマ(毒素)と混ざったピッタが溢れかえり、アムラピッタ(呑酸症)のわりと重い方。になったらしく、休日は1日中ホテルで吐いていました。

翌日大学に、じゅ、授業に行かなきゃ…とヘロヘロになりながらホテルで呼んでもらったタクシーで大学に行きましたが、スプーン1杯の水を飲んでもすぐぴゅー。と吐いてしまっていたので次第に飲むのが億劫になって脱水でショックバイタルに近くなっていて、階段は手すりにすがってやっと上れた有様でした。

 その時に救急担当の外来の先生がこのスワルナスタシェーカララサを、シャタヴァリカルパ(シャタヴァリをザラメに絡めた甘い製剤)を水に溶いて飲め。と言ってきて、飲んでも吐くから嫌です。と抵抗しましたが良いから飲め。と言われたので、吐いても知らないんだからー。洗面器用意しといてよねー。と言って飲んだらムカムカはしましたが、吐きませんでした(!)。

 その後も吐き気は続いて点滴生活になりましたが、西洋医学の吐き気止め、プリンペランのジェネリックよりもこのスワルナスタシェーカラのほうが吐き気を止める力が強くて、8時間ピタッ。と止まったので、鉱物薬ってsugeeee!!!!!!と思いました。

 薬価が高かったせいか、初日しかこの薬は出なかったのですが、凄まじい切れ味に惚れ惚れして、その後のラサシャーストラの勉強が楽しくなりました。そんな思い出のある鉱物です。

 作用に「豊満にする」と「減量作用」という矛盾した二つがある点がユニークですが、きっとボンキュッボンにしてくれるということなのだろうと思います(女性をより美しくするためのアヌパーナがあるので)。

 とっても高価な薬ですが(悪魔憑きのような)狂乱状態を鎮める(Bhūtāveśa-praśāntikara)、というカルマは統合失調症の陽性症状ですとか認知症のBPSDにも応用が利きそうです。

スワルナシッダジャラの形でなら新型コロナウイルス後遺症、同ワクチン後遺症などによるアレルギーや自己免疫疾患に対してスワルナとして解毒作用があり、ヒルデガルトの療法でも薬の副作用、アレルギーにも用いているのでトライする価値はあるかと思います。

参考文献&サイト)

1)A Text Book of Rasashastra by Dr. Vilas Dole & Dr. Prakash Paranjpe

2)RASA ŚĀSTRA by Damodar Joshi

3)A Text Book of Rasashastra (THE MYSTICAL SCIENCE OF ALCHEMY)

by Dr. Bharti Umethia & Dr. Bharat Kalsariya

4)RASAŚĀSTRA THE MERCURIAL SYSTEM by Prof. Himasagara Chandra Murthy

5)アーユルタイムス・スワルナバスマ

6)ヒルデガルトの宝石療法p58−59

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