マーニキャ (Māṇikya, ルビー)

宝石九種(navaratna)の一つ、ルビーはサンスクリット語でマーニキャと言い、インド占星術(ジョーティッシュ)では太陽(スーリヤ)に対応する宝石です。

☆デロングスタールビー(ビルマ産、100ct以上。大きくて且つ六条の光芒が美しく出ているのが貴重だそうです)↓

☆サンライズルビー(ミャンマー産、25.59ct。最も美しいビジョンブラッド(鳩の血色)の石とされる)↓

別角度、別枠のサンライズルビー。同じ石なのに表情が違いますね。↓

☆クリムゾンフレイム(これもピジョンブラッドで有名、大きさはサンライズルビーに劣るもののオークションで高値が付いた。ビルマ産15.04ct)↓

☆ルビー原石↓

【和名】

ルビー、紅玉

【英名】

Ruby

【ラテン語名】

Rubinus

【サンスクリット語異名】

アルナ(Aruna)

アルノパラ(Arunopala)

クルビンダ(Kuruvinda)

ラクシュミープシュパ(Lakṣmīpuṣpa)

ローヒタ(Lohita)

ローヒタカ(Lohitaka)

マーニキャ(Māṇikya)

パドマラーガ(Padmarāga)

パータローパラ(Pāṭalopala)

ランガマニ(Rangamani)

ランガマーニキャ(Rangamānikya)

ラトナラージャ(Ratnarāja):宝石の王

ラトナラータ(Ratnarāta)

ラビラトナ(Raviratna)

サウガンディカ(Saugandhika)

ショーナラトナ(Śoṇa ratna):赤い宝石

ショーニトパラ(Śonitopala)

ショーノパラ(Śonopala)

シュルンガーリン(Śṛngārin)

スラトナカ(Suratnaka)

タルナ(Taruna)

ワスラトナ(Vasuratna)

【ラサシャーストラ分類】

ラトナーニ(Ratnāni, 宝石類)

【元素記号】

Al2O3:Cr(クロム含有酸化アルミ)

【モース硬度】

【比重】

4(20℃)

【色】

ピンク

【屈折率】

1.760

【タイプ】

1. Padmarāga(パドマラーガ)

2. Nīlagandhi(ニーラガンディ)

3. Kuruvinda(クルビンダ)

4. Saugandhika(サウガンディカ)

ラサシャーストラの古典、ラサラトナサムッチャヤによるとルビーは上記四種に分けられる。

パドマラーガはハスの花びらのような艶があり透明で長く丸みを帯び、重く滑らかでとても明るく綺麗なもの。

ニーラガンディは川床から得られ、赤いが内側から青みがかった照りがある。

クルビンダは石から育ち濃い赤で美しい。

サウガンディカはスピネルから育ち黄色っぽい赤である。

このうち前二者が全ての目的に用いられる良質の石である。

【選品(Grāhyatā & Agrāhyatā)】

グンジャー(Guñjā, Abrus precatoriusという有毒な薬用植物)の実↓

またはインドラゴーパ(Indragopa, コニチールカイガラムシの雌。すりつぶして乾かすと赤い染料となる)のように↓

深紅で、蓮のように輝き透明で卵型をしていて綺麗、整っていて大きく朝日に当てると赤い光線を作り、牛乳に入れると牛乳が赤っぽく見えて、石の上で擦るともっと輝き美しく見えるものが上質のルビーである(薬用としても適している)。氷にルビーをぶつけて大きい音がしたら純粋なルビーの証明である。

 一方、穴が開いていたりザラザラしていたり表面が平らだったり光沢のない見た目だったり軽く不揃いで小さいものはルビーとしては不良品である。

【ルビーの浄化法(ショーダナ)】

ドーラーヤントラ(壺に液体を入れて壺に渡した木の棒から浄化したい物質を布で包んで糸で吊り下げて下から加熱して煮る方法とその装置一式を言う)↓

に、レモンの搾り汁もしくはアムラワルガ(酸性薬グループ)などの酸性の液体を入れてルビーを布の中に入れて3時間煮てから取り出し、お湯で洗って乾かすとルビーは浄化される。(R.R.S. 4/60, RT23/46)

【ルビーの灰化(マーラナ)法】

  • 浄化されたルビーと、等量の浄化された

鶏冠石(サンスクリット語でmanaḥśilā,マナハシラーと言い、化学式はAs4S4)

石黄(サンスクリット語でharitāla, ハリターラと言い、化学式はAs2S3)

硫黄(サンスクリット語でgandhaka, ガンダカと言い、化学式はS )

を一緒にすり鉢に入れてすりこぎでラクチャ(酸味の果物)の汁を加えながら7日間擦る。その後コイン状に整形して日に当てて乾かし(チャクリカー作り)、素焼きの皿に並べて同じ大きさの別の素焼きの皿で蓋をしてつなぎ目を一面にきめ細かい泥を塗った包帯状の細長い布で巻いて乾かすことで密封する(シャラーワサンプタ作り)。このシャラーワサンプタを8回ガジャプタにかけるとルビーの灰化物(バスマ)が得られる。

 これは全ての宝石に共通するバスマの作り方でダイヤモンド以外はこの方法で作ることができる。ただし、真珠と珊瑚は例外で、その冷性を保つ為にラクチャではなくローズウォーターか牛乳を加えて7日間擦り、ガジャプタは8回ではなく2、3回に留める。(R.R.S.4/63)

2)↑1)でラクチャの汁を使う代わりにレモンの搾り汁を用いる。後は全く同じ。(RT23/50-52)

3) 1)でハラターラの代わりにヒングラ(hiṅgula, 辰砂のこと。化学式はHgS)をルビーと等量用いて後は2)と同様に行う(RT 23/54−56)。

【ルビーのラサ等】

ラサ(味):甘

グナ(性質):油粗

ヴィールヤ(効力):冷性

ドーシャカルマ: (異常)カファワータを排出、(異常)ワータピッタを排出、(異常)トリドーシャを緩和

【カルマ(作用)】

消化力向上(sandīpana)

催淫作用(vṛṣyatama)

体力向上(balya)

若返り(rasāyana)

向知性作用(medhya)

強心/心保護作用(hṛdya)

長寿をもたらす(āyuṣya)

強精作用(vājīkaraṇa)

【適応】

カルマ性の病気(karmaja vyādhi)

(肺結核などの)消耗性疾患(kṣaya roga)

悪魔や悪霊などに起因する病気(bhūta vetālādi janya roga)

太陽に起因する病気(頭痛、多尿症候群、(マラリア様)弛張熱、重複毎日熱(成人発症スティル病のように急激に39℃以上に発熱し解熱するサイクルを1日2回起こすもの) 、ピッタ性疾患)(Sūryagraha janya roga such as śiropīḍā, prameha, Satatajwara, Santatajwara, pitta roga)

灼熱感を伴う発熱(dāha jwara)

アーマ性疝痛(āma śūla)

急性胃腸炎(Viṣūcikā)

しゃっくり(hikkā)

心臓病(hṛdroga)

精神疾患(Unmāda)

眩暈(Bhrama)

インポテンツ(Klaibya)

中毒(viṣaroga)

頭部外傷(śirovraṇa)

【用量、用法】

30-60mg

【禁忌】

特になし

【アヌパーナ】

蜂蜜

ギー

牛乳

生クリーム

【代表的処方と主な適応】

ナワラトナラジャムリガンカラサ(Navaratna rajamriganka rasa)・黄疸、肝臓病、喘息、てんかん

ジャワハラモーハラ(Javahara mohara)・心不全、動悸、認知症統合失調症

ブラーフミーワティー(Brāhmī vaṭī)・うつ病、てんかん、痛風、言語障害

【ヒルデガルトの宝石療法】

使用形態)

ルビーの原石、スライス、指輪、ルースまたは繋ぎ合わせたもの

適応)

  • 感染症、伝染病、流行病、インフルエンザ、免疫力低下に

これらの病気の兆候が見られたら、真夜中にルビーまたはルビーのネックレスを臍の上に置きます。ルビーの強い力は他のどんな治療薬よりも体内に浸透して、あらゆる感染症を一掃するので、温かい感じがしたらすぐに石は取り除きます。

  • 頭痛、インフルエンザによる頭痛、偏頭痛に

ルビーのルースまたはネックレスを頭頂部に置いて、痛みがなくなるか、温かいと感じるまでそのままにします。他の軟膏などより、すばやく強力に力が浸透するので、長時間続けないようにしてください。浸透力が強いので、皮膚科などで行うルビーレーザー照射による治療には慎重さが必要です。人工的に作られたスペクトルが、ルビーの放射をより強力にするからです。

  • 天候の変化による不調、寒冷な気候による頭痛や心臓痛、携帯電話やコンピュータなどの電磁波による悪影響

ルビーのネックレスまたはブレスレットを身につけます。研磨したものでも原石でも構いません。ただし、調子が良くなったら、すぐに外してください。ルビーを使った治療を継続的に行うことはお勧めできません!

【臨床小話】

「ヒルデガルトの宝石療法」では感染症一般にルビーを用いるとしています。ラサシャーストラにおけるルビー、マーニキャは三つのドーシャ全てを緩和しますし、肺結核などの消耗性疾患にも用いるとしていますから一応合致はしています。

頭痛についてもマーニキャは「(惑星としての)太陽が関与する頭痛」には効くのでここも合致してますね。

ヒルデガルトさんの時代、中世にはなかった「電磁波による悪影響」は著者のヴィガートさんの知見と思われます。電磁波、とは言ってないものの、マーニキャのほうはカルマによる病気(難治性皮膚病なんかは前世で教師とか師匠に逆らったせい。とも言われています)ですとか、幽霊、悪霊、悪魔などによる病気にも良いと言っています。

マーニキャの作用に出てくる“bhūta vetālādi janya roga“の、Bhūta(ブータ)は、アーユルヴェーダでは細菌、真菌、ウイルスといった目に見えない病原体全般を指すこともありますし(転じて伝染病と同義としても用いられる点もヒルデガルトさんと合致してますね)、悪霊・悪魔・幽霊といった「目に見えない」悪さをする邪悪な存在、という意味で取ることもあります。Vetālādiは「幽霊など」の意です。

広義の「目に見えない」「体に悪さする」存在としてなら現代ならば電磁波も含んで良いかもしれませんね。まあ、ルビーは長く身につけてはいけない、とあるので電磁波対策ならシュンガイトとかのほうがお安くて良いのかもしれません。

参考文献)

1)A Text Book of Rasashastra by Dr. Vilas Dole & Dr. Prakash Paranjpe

2)RASA ŚĀSTRA by Damodar Joshi

3)A Text Book of Rasashastra (THE MYSTICAL SCIENCE OF ALCHEMY)

by Dr. Bharti Umethia & Dr. Bharat Kalsariya

4)RASAŚĀSTRA THE MERCURIAL SYSTEM by Prof. Himasagara Chandra Murthy

5)ヒルデガルトの宝石療法byヴィガート・シュトレーロフ フレグランスジャーナル社

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