25)マリチャ(Marica)(黒胡椒/ブラックペッパー)(温辛)

☆木


☆花と葉


☆完熟、未熟実

★乾燥した実


【学名】
Piper nigrum

【科】
コショウ科(Piperaceae)

【同義語・異名】
Black pepper(英名)
Dharmapattana(ダルマパッタナ):マリチャは他の国々に輸出するアイテムとして港に蓄えられる
Kaphavirodhi:カファ性の異常に対して有効な薬
Kaṭuka:マリチャは辛味を持つ
Kola(コーラ)
Kolaka(コーラカ):マリチャは港によく輸出のために蓄えられている
Kṛmihara:寄生虫殺しである
Kṛṣṇa(クルシュナ):マリチャは黒色
Palita(パリタ)
Rūkṣa:マリチャは乾燥させる
Śākāṅga(シャーカーンガ): マリチャはよく用いられるスパイスで台所に蓄えられている
Shyam(シュヤム)
Śirovṛnta:マリチャの実はてっぺんに極小の杯を持つ
Suvṛtta(スブルッタ)
Tīkṣṇa:マリチャは鋭性を持つ
Ūṣaṇa(ウーシャナ):マリチャは灼熱感と痛みを引き起こす
Vallīja(ワルリージャ):マリチャは蔓性植物から得られる
Vellaja(ヴェールラジャ):マリチャは蔓性植物
Vīra:マリチャは非常に強い効力を持つ
Vṛttaphala:マリチャの実は丸い形
Yavaneṣṭa(ヤワネーシュタ):果実は他の国々で需要がある
黒胡椒(和名)

【ガナ/クラ(古典における分類)】
ガナ)
チャラカ: Dīpanīya(消化力向上薬グループ), Śūlapraśamana(腹部疝痛治療薬グループ), Kṛmighna(抗寄生虫薬グループ), Śirovirecana(頭部浄化薬グループ)
スシュルタ:Pippalyadi, Trayuṣaṇa
ミシュラカ:trikaṭu(三辛)、caturuṣaṇa(四温)、ṣaḍuṣuṇa(六温)、kaṭu caturjātaka(辛味四芳香性薬)

クラ)
pippalikula

【ラサ(味)】

【グナ(性質)】
軽粗鋭

【ヴィールヤ(効力)】

【ヴィパーカ(消化後味)】

【ドーシャへの影響】
カファワータシャーマカ(カファとワータを緩和する)

【スロトガーミトワ(経路・臓器・組織行性、親和性。特に作用する部位のこと)】
ドーシャ: カファワータシャーマカ
体組織(ダートゥ):シュクラ
老廃物(マラ):便
臓器):呼吸器、消化器

【カルマ(作用)】
・カファドーシャを減ず(kaphaghna)
・過剰なカファを液体にして排出する(kaphaniḥsārak)
・神経刺激作用(nāḍyottejaka)
・神経賦活作用(nāḍībalya)
・歯に良い(dantya)
・目に良い(cakṣuṣya)
・閉塞を治す(srotorodhahara)
・解熱作用(jvaraghna)
・発汗作用(svedajanana)
・浮腫/炎症に良い(śothaśāmaka)
・消化力向上(dīpana)
・アーマ燃焼(pācana)
・アーマ除去作用(āmapācana)
・駆風作用(vātānulomana)
・疝痛を治す(śūlapraśamana)
・ワーユとアグニを亢進(uttejaka)
・抗寄生虫作用(kṛmighna)
・心拍出力増強作用(hṛdayottejaka)
・難治性皮膚病を治す(kuṣṭhaghna)
・増血作用(raktotkleśaka)
・掻爬/減量作用(lekhana)
・尿量増加作用(mūtrendriyottejaka)

【適応(ローガグナタ)】
スロータス閉塞による病気(Srotorodhajanya vikāra)
神経衰弱(Nāḍīdaurbalya)
目の病気(Netravikāra)
夜盲症(Naktāndhya)
翼状片(Arma)
角膜の病気(Śukla)
鼻炎(Pratiśyāya)
歯の病気(Dantavikāra)
歯痛(Dantaśūla)
う歯(Dentakṛmi)
発熱(Jvara)
悪寒を伴う発熱(Śītajvara)
間欠熱(Viṣamajvara)
消化力低下(Agnimāndya)
消化不良(Ajīrṇa)
鼓腸(Ādhmāna)
腹部疝痛(Udaraśūla)
肝臓病(Yakṛdvikāra)
咳嗽(Kāsa)
呼吸困難(Śvāsa)
吃逆(Hikkā)
難治性皮膚病(Kuṣṭha)
皮膚病(Carmavikāra)
ワータ性疾患(Vātavikāra)
白斑(Śvitra)
白斑(Kilāsa)
疥癬(Pāmā)
疼痛と腫脹を伴う病気(Śotha-vedanā yuktavikāra)
ざ瘡(Pīḍikā)
浮腫(Śotha)
排尿困難(Mūtrakṛcchra)
勃起不全(Dhvajabaṅga)
無月経(Rajorodha)

【薬用部位】

【用量・用法】
250mg-1g

【含有化合物】
phenol
Flavonoids
Alkaloids
Amides
Steroids
Lignans
Neolignans
Terpenes
Chalcones
Piperine
Isopiperine
Chavicine
Isochavicine
Piperamide
Piperamine
Piperettine
Piperacide
Piperolein
Sarmentine
Sarmentosine
Retrofractamide A
Brachyamide B
N-formylpiperidine
Guineensine
Isobutyl-eicosadienamide
Tricholein
Trichostachine
Isobutyl-octadienamide

【使用例(āmayikaprayoga)】
・消化力低下の際に黒胡椒の粉末を用いる
・赤痢には黒胡椒の微細な粉末とヒングとアヒフェーナを与えると良い
・直腸脱と痔疾にクミンシードと黒胡椒を蜂蜜と共に毎日投与する
・マラリアなどの間欠熱に黒胡椒を用いる。ピペリンが解熱作用を持つため。
・胃腸炎(visucika)の初期に黒胡椒、アヒフェーナ、ヒングの等量混合物を投与するとよい
・咳嗽に対して黒胡椒とギーと蜂蜜が良い
・慢性咳嗽に対してジャッガリーと凝乳と一緒に黒胡椒を与えると良い
・吃逆と呼吸困難に対してバーランギとヤワクシャーラと黒胡椒を白湯で飲むと良い
・てんかんに対して黒胡椒とワチャーを凝乳に混ぜて空腹時に摂ると良い
・夜盲に対して黒胡椒と凝乳を擦ったものをアンジャナ(薬用アイライン)として用いると良い
・関節リウマチ、麻痺、掻痒症、疥癬に対して黒胡椒は外用としても用いられる
・虫刺されに黒胡椒のレーパを貼ると良い
・黒胡椒の粉末は歯磨き粉にも良い
・白斑症に対して黒胡椒の粉末または胡麻油と混ぜて外用すると良い
・夜盲症、翼状片、角膜の病気に対して黒胡椒の実を蜂蜜と一緒に擦って目に貼ると良い
・歯の病気に対して黒胡椒の実を噛んでも良い
・肥満症には1枚のキンマの葉(betel leaf)と黒胡椒10粒を摂り冷たい水を飲むことを2カ月続けると良い
・ギーの消化を促すのに黒胡椒の粉末が良い
・小児の浮腫に黒胡椒をバターと混ぜたものが良い
・黒胡椒の外皮を取り除いたものはシュウェータマリチャといい、目の病気や蛇咬傷に用いる
・過敏性腸症候群、腹部疝痛、脾腫、消化力低下、腹部腫瘤、痔疾などにたいして黒胡椒粉末単独か黒胡椒+チトラカ、スワルチャラをバターミルクと飲むと良い
・鼻炎に対して黒胡椒粉末をジャッガリーと混ぜたものを飲み、食品としてヨーグルトと酸味の食品を摂ると良い
・疥癬、湿疹(pāmā)に対して黒胡椒を出来立ての牛のギーと摂ると良い

【処方例・主な適応】
マリチャーディヤチュールナ(Maricādya cūrṇa):咳嗽
マリチャーディヤタイラ(Maricādya taila):難治性皮膚病
マリチャーディヤグルタ(Maricādya ghṛta):過敏性腸症候群、咳嗽
マリチャーディクワータ(Maricādi kwātha):発熱
マリチャーディドゥーマ(Maricādi dhūma):咳嗽
マリチャーンジャナ(Maricāñjana):精神病、視野欠損

【注意・禁忌】
マリチャの入った処方を長期に摂りすぎると灼熱感、呑酸症、悪心、発熱、頭痛などをきたすことがある

【1行まとめ】
頭部&スロータス浄化、虫殺しに良いトリカトゥの一員でダイエットの友

【臨床小話】
黒胡椒として食品でもよく使われていますし、トリカトゥ(三辛)の一員として様々な処方に配合されています。

 アーユルヴェーダではプラマーティ(Pramāthi)というカルマの例となる生薬として有名です(薬学の試験に頻出!)。プラマーティとは消化管などの内外大小様々な経路(スロータス)にこびりつき、詰まらせ閉塞させているアーマ(毒素)や悪化ドーシャ、悪化ダートゥ(体組織)、悪化マラ(排泄物、老廃物)などの全ての病原物質をひっぺがして取り除き排出させ、経路を浄化する。という強力な作用です。

 マリチャの粉末を嗅ぎタバコのように鼻で嗅がせてすさまじくくしゃみ、鼻水を引き起こすことで頭部の浄化を図ったりしています。この優れた特質と消化力向上や虫殺しの作用のために様々な消化器疾患に用いられ、また、消化器の異常がベースにある呼吸器疾患の治療にも用いられます。

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