24)ピッパリー/ピッパリームーラ(pippalī / pippalīmūla)(長胡椒、ヒハツ)(非温非冷甘/温辛)

☆ピッパリー全体


☆ピッパリーの未熟、完熟実


★ピッパリー乾燥実


☆ピッパリームーラ(ドライ)


【学名】
Piper longum

【科】
コショウ科(Piperaceae)

【亜種】

  1. Pippalī = Piper longum
  2. Saiṁhalī = Piper retrofructum(ヒハツモドキ、ピパーチ、ジャワナガコショウ)
  3. Gaja pippalī = Piper chava=Cavya
  4. Vana pippalī = Piper sylvaticum / Piper peeploides

【同義語・異名】
Capalā(カパラー):多くの病気に有効であり若返りとしても役立つ
Kaṇā(カナー):果実は小さい実
Kaṭubīja(カトゥビージャ)
Kolā(コーラー):実は辛い
Korangī(コーランギー)
Kṛṣṇā(クルシュナー):乾燥すると黒くなる
Long pepper(英名)
Māgadhī(マーガディー):マガダ地方(現南ビハール)に育つ
Śauṇḍī(シャウンディー):実は象牙のような固い多肉質の穂にくっついている
Tīkṣṇataṇḍulā(ティークシュナタンドゥラー):ピッパリーの実は米粒に似ている
Upakulyā(ウパクルヤー):殊に水流などの湿地を好む
Ūṣṇā(ウーシュナー):辛味で温性
Vaidehī(バイデーヒー):バイデヒー(現北ビハール)の湿地に生える弱い植物
(インド)ナガコショウ(和名)
畢撥(ヒハツ)(和名)

【ガナ/クラ(古典における分類)】
ガナ)
チャラカ: kāsahara(鎮咳薬グループ), hikkānigrahaṇa(抗吃逆薬グループ), śirovirecana(頭部浄化薬グループ), vamana(催吐剤グループ), tṛptighna(食欲亢進とカファ排泄薬グループ), dīpanīya(消化力向上薬グループ), śūlapraśamana(鎮痛剤グループ)
スシュルタ:Pippalyādi, ūrdhvabhāgahara, śirovirecana        
ミシュラカ:
Pippalī→caturuṣaṇa(四温)、pancakola(五コーラ)、trikaṭu(三辛)、ṣaḍuṣuṇa(六温)、Dr. Lad’s 24dravya

pippalīmūla→caturuṣaṇa(四温)、pancakola(五コーラ)、ṣaḍuṣuṇa(六温)

クラ)
Pippalīkula

【ラサパンチャカ】

乾燥ピッパリーの実、採れたて新鮮な生の実、乾燥させた根で味や性質、ドーシャへの影響等が異なります。

まあ、日本ではフレッシュな実は石垣島とか南部亜熱帯じゃないとお目にかかれないのでまず使わないと思いますが一応。


【スロトガーミトワ(経路・臓器・組織行性、親和性。特に作用する部位のこと)】
ドーシャ: カファワータシャーマカ(カファとワータを緩和する)
体組織(ダートゥ):ラクタ、メーダ、シュクラ、マッジャー
老廃物(マラ):便
臓器):呼吸器

【カルマ(作用)】
・悪化ワータ除去作用(vātahara)
・体力向上(balya)
・若返り作用(rasāyana)
・健脳作用(medhya)
・頭部浄化作用(śirovirecana)
・解熱作用(jvaraghna)
・食欲亢進とカファ排泄作用(tṛptighna)
・消化力向上(dīpana)
・駆風作用(vātānulomana)
・腹部疝痛を治す(śūlapraśamana)
・緩下作用(mṛdurecana)
・肝臓賦活作用(yakṛduttejaka)
・脾腫を治す(plīhavṛddhihara)
・抗寄生虫作用(kṛmighna)
・鎮咳作用(kāsahara)
・呼吸困難を治す(śvāsahara)
・抗吃逆作用(hikkānigrahaṇa)
・消耗性疾患(結核を含むこともある)を治す(kṣayahara)
・増血作用(raktotkleśaka)
・殺虫作用(jantughna)
・難治性皮膚病を治す(kuṣṭhaghna)
・利尿作用(mūtrala)
・分娩促進作用(garbhāśayasaṅkocaka)
・催淫作用(vṛṣya)
・間欠熱予防作用(viṣamajvaraprativandhaka)

【適応(ローガグナタ)】
衰弱(Daurbalya)
脳機能低下(Mastiṣkadaurbalya)
ワータ性疾患(Vātavyādhi)
発熱(Jvara)
慢性熱(Jīrnajvara)
間欠熱(Viṣamajvara)
味覚異常(Aruci)
消化力低下(Agnimāndya)
消化不良(Ajīrṇa)
便秘(Vibandha)
腹部腫瘤(Gulma)
腹部疾患(Udaravikāra)
痔疾(Arśa)
肝臓病(Yakṛdvikāra)
脾腫(Plihavṛddhi)
寄生虫疾患(Kṛmiroga)
咳嗽(Kāsa)
呼吸困難(Śvāsa)
吃逆(Hikkā)
(結核を含む)消耗性疾患(Kṣaya)
結核(Rājayakṣmā)
心不全(Hṛddaurbalya)
貧血(Pāṇḍu)
血液性疾患(Raktavikāra)
難治性皮膚病(Kuṣṭha)
関節リウマチ(Āmavāta)
痛風(Vātarakta)
精子減少症(Śukradarubalya)
無月経(Rajorodha)
難産(Kaṣṭaprasava)

【薬用部位】

【用量・用法】
粉末で1-2g

【含有化合物】
alkaloids
Amides
Volatile oils
Saponins
Carbohydrates
Amygdalin
Starch
Protein
Piperine
Piperlongumine
Pipernonaline
Pipercide
Sesamine
Methyl piperine
Piperettine
Asarinin
Pellitorine
Piperundecalidine
Retrofractamide A
Pergumidiene
Brachystamide-B
Propenal
Piperoic acid
β-sitosterol
Caryophyllene
Sesquiterpenes
Essential oils

【使用例(āmayikaprayoga)】
・咳嗽、間欠熱、心臓病に対してピッパリームーラをギー、ハチミツと混ぜて牛乳と共に与えると良い
・寄生虫疾患に対してピッパリームーラを山羊の尿または山羊乳と共に与えると良い
・不眠にピッパリームーラの粉末をジャッガリーと与えると良い
・昏睡、傾眠傾向に対して粉末を鼻から吸わせると良い
・逆にピッパリー粉末を内服で用いると不眠症やてんかんに対して鎮静的に働く
・脾腫に対してピッパリーの粉末をローハバスマ(鉄の有機灰)と共に牛乳で飲むと良い
・慢性熱、痛風、味覚異常、貧血、腹部腫瘤、脾腫、痔疾、腹部疾患、浮腫、消耗性疾患などに対してピッパリーの粉末を1g、1日2回投与して1日1gずつ、最大1日5gになるまで増量し、次の日から1日1gずつ減量していく、ワルダマーナピッパリーラサーヤナという方法がある
・ピッパリー、トリファラー、ダディとバターミルク、パンチャガブヤグルタと牛乳は間欠熱に良い
・乾性咳嗽を治すのにピッパリーの粉末0.5gを蜂蜜と共に摂ると良い
・喘息に対してピッパリー、アーマラキー、乾姜の粉末を果糖と混ぜたものを与えるとすぐに喘息、吃逆は良くなる
・腹部疾患に対して1000個のピッパリーとスヌヒの乳液を混ぜて撞いたものを徐々に摂ると腹部疾患に良い。
・ピッパリーの粉末と牛の尿とひまし油を取ると慢性化した坐骨神経痛に良い
・等量のビダンガの種、ホウ砂(Na2B4O7・10H2O)、ピッパリー粉末を牛乳と共に摂ると妊娠の予防(避妊)に良い
・ピッパリー、アシュワガンダ、砂糖と蜂蜜、ギーを混ぜた舐め剤は(結核を含む)消耗性疾患に良い
・肥満に対してピッパリーの粉末単独またはトリカトゥ(三辛)を蜂蜜と一緒に摂ると良い
・ウルスタンバ(大腿の筋攣縮)を主症状とする急性横断性脊髄炎、アテローム性動脈硬化症、大動脈腸骨動脈閉塞、痙性対麻痺、ミオパシーなどを包括する疾患でパンチャカルマが禁忌とされている)に対してピッパリー、ピッパリームーラ、バッラータカのペーストを煎じたものに蜂蜜を混ぜたものを毎日摂らせると良い
・乳汁分泌不全に対して牛乳に黒胡椒とピッパリームーラ混ぜたものを与えると良い
・嘔吐に対してピッパリーをギー、蜂蜜、砂糖と摂ると良い
・アムラピッタに対して茶匙1/4のピッパリーに茶匙1杯の氷砂糖を与えると良い
・ワータ性、カファ性発熱またはインフルエンザに対して、茶匙1/4のピッパリーに等量のトゥルシーとレモングラスを混ぜたものを1日3回与えると良い
・憩室炎に対して茶匙1/4のピッパリーに茶匙1杯のギーと共に与えると良い
・痔疾に対して新鮮なバターミルクカップ1杯にピッパリーひとつまみを加えたものを飲むと良い

【処方例・主な適応】
ピッパルヤディヤーサワ(Pippalyadyāsava)・過敏性腸症候群、腹部腫瘤
ピッパリーグルタ(Pippalīghṛta)・消耗性咳嗽
ピッパリークワータ(Pippalī kwātha)・発熱、脾臓の病気
ピッパリーカンダ(Pippalī kaṇḍa)・呑酸症、腹部疝痛
ピッパリーパーカ(Pippalī pāka)・慢性熱、呼吸困難
ピッパリムーラディクワータ(Pippalimūladi kwātha)・ワータ性発熱
ピッパルヤーディチュールナ(Pippalyādi cūrṇa)・カファ性嗄声
ピッパルヤーディヤタイラ(Pippalyādya taila)・痔疾、腹部疝痛
ピッパルヤーディヤローハ(Pippalyādya loha)・吃逆、呼吸困難
ピッパルヤーディヤワルティ(Pippalyādya varti)・目の病気

【注意・禁忌】
出血性疾患、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、非常にピッタが亢進している状態は禁忌

【1行まとめ】
呼吸器消化器頭部浄化に良い、若返り催淫ハーブでトリカトゥの一員

【臨床小話】
トリカトゥ(三辛)の一員として多くの処方に配合されているだけではなく、ワルダマーナピッパリーラサーヤナでも見られる通り、若返り療法にも使われます。トリカトゥの中では唯一、ヴィールヤが非温非冷、漢方風に言うなら「平」ですかね。あとヴィパーカ、消化後の味も辛味じゃなくて甘味なのが意外なところです。

漢方の生薬が熱>温>平>涼>寒 の順番に熱い→冷たい、の作用を持つのに対し、アーユルヴェーダは

ウシュナ(uṣṇa, 温)>ナウシュナナシータ(nauṣṇanaśīta, 非温非冷)>シータ(śīta, 冷)

の3段階しかなくて、しかもその真ん中に属するのは少ないのですが、ピッパリーの実はその数少ない真ん中の生薬の一つです。

 卒業前にパンチャカルマをしてその後の若返り療法、ラサーヤナとしてパンチャカルマ科の先生にピッパリーを使ったワルダマーナピッパリーラサーヤナを指示されました。サダナンダ先生にはわたしがピッタ体質で暑いインドに居たせいでピッタ過剰であったので、非温非冷のピッパリーであっても熱性の害が出るかも、と心配された思い出があります(若返りの効果もよくわからなかった覚えが)。そしてピッパリーの実は非常に虫がつきやすいので保管には注意が必要です(貰い物のピッパリーの袋を開けたら虫が沢山にじりでてきたので絶叫して捨てて買い直した覚えが)!!!

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