45)ヤシュティーマドゥ(Yaṣṭimadhu)(冷甘)(スペインカンゾウ、ヨーロッパカンゾウ、甘草、リコリス)

Yaṣṭiは「皮」、madhuは「甘い」という意味なのでサンスクリット語で「甘い皮」という意味になります。

☆ウラルカンゾウの花

☆ウラルカンゾウの根

☆スペインカンゾウの花と葉

☆スペインカンゾウの根

☆甘草乾燥根

【学名】
Glycyrrhiza glabra

【科】

マメ科(Fabaceae)


【同義語・異名】

ジャラジャ(Jalaja)

クリータカ(Klītaka):男性不妊を治す

クリータナカ(Klītanaka):陸生である

Licorice root(英名)

マドゥカ(Madhuka)

マドゥパルニ(Madhuparni)

マドゥララター(Madhuralatā):甘いほふく植物

マドゥラワルリー(Madhuravallī):甘いほふく植物

マドゥラスラーワー(Madhusrāvā):味は甘い

マドゥヤシュティー(Madhuyaṣṭī)

サウムヤ(Saumya)

ショーシャパハ(Shoshapaha)

Sweet wood(英名)

ヤシュティマドゥカ(Yaṣṭimadhuka):茎と根は甘い味

スペインカンゾウ(和名)

ヨーロッパカンゾウ(和名)

リコリス(和名)

【ガナ/クラ(古典における分類)】
ガナ)
チャラカ: jīvannīya(延命薬)、 sandhānīya(癒合促進薬), varṇya(顔色を良くする薬), kaṇṭhya(声を良くする薬), kaṇḍūghna(止痒薬), chardinigrahana(止嘔薬), snehopaga(油性化補助薬), vamanopaga,(吐法補助薬) asthāpanopaga(煎じ液浣腸補助薬), mūtravirajaniya(尿色改善薬), śonithāsthāpana(止血薬), añgamardapraśamana(体痛治療薬)

スシュルタ:kākolyādi gaṇa, sārivādi gaṇa, añjanādi gaṇa    

Dr. Lad’s 24dravya


クラ)
aparājitādi kula


【ラサ(味)】


【グナ(性質)】
重油

【ヴィールヤ(効力)】



【ヴィパーカ(消化後味)】



【ドーシャへの影響】
ピッタワータシャーマカ


【スロトガーミトワ(経路・臓器・組織行性、親和性。特に作用する部位のこと)】
ドーシャ: ピッタグナ、ワータグナ
体組織(ダートゥ):ラサ、ラクタ、マッジャー、シュクラ

老廃物(マラ):髪、尿

臓器:目、呼吸器


【カルマ(作用)】

・延命作用(Jīvanīya)

・若返り作用(Rasāyana)

・向知性作用(Medhya)

・神経賦活作用(Nāḍībalya)

・知覚回復作用(Vedanāsthāpana)

・目に良い(Cakṣuṣya)

・顔色を良くする(Varṇya)

・声を良くする(Kaṇṭhya)

・毛髪に良い(Keśya)

・体力向上(Balya)

・油性化作用(Snehana)

・固着したドーシャをスロータスから引き剥がし排出する(Chedana)

・解熱作用(Jvaraghna)

・止血作用(Śoṇitasthāpana)

・乳汁分泌作用(Stanyajanana)

・皮膚に良い(Tvacya)

・抗炎症/抗浮腫作用(Śothahara)

・止痒作用(Kandūghna)

・創傷治癒促進作用(Vraṇaropaṇa)

・止嘔作用(Chardinigrahaṇa)

・緩下作用(Vātanulomana)

・緩下作用(Mṛdurecana)

・制酸作用(Āmāśayasthāmlatva nāśaka)

・鎮咳作用(Kāsahara)

・吃逆を治す(Hikkānigrahaṇa)

・筋量増加(Bṛṅhaṇa)

・癒合促進作用(Sandhānīya)

・利尿作用(Mūtrala)

・尿色改善作用(Mūtravirajanīya)

・口渇を治す(Tṛṣṇānigrahaṇa)

・灼熱感を治す(Dāhaśāmaka)

・催淫作用(Vṛṣya)

・増精作用(Śukrajanana)

・解毒作用(Viṣaghna)

【適応(ローガグナタ)】

脳神経衰弱(Maṣṭiṣkanāḍīdaurbalya)

認知症(Buddhimāndya)

頭部疾患(Śiroroga)

ワータ性疾患(Vāta vikāra)

てんかん(Apasmāra)

嘔吐(Chardi)

便秘(Vibandha)

腹部疝痛(Udaraśūla)

呑酸症(Amlapitta)

胃潰瘍(Āmāśayukta vraṇa)

十二指腸潰瘍(Pariṇāmaśūla)

側腹部疝痛(Pārśvaśūla)

咳嗽(kāsa)

呼吸困難(Śvāsa)

吃逆(Hikkā)

嗄声(Svarabheda)

喉の病気(Kaṇṭhāvikāra)

肺結核(Yakṣmā)

肺結核/血胸(Uraḥkṣata)

(進行した結核などによる)消耗性疾患(Kṣaya)

血液疾患(Raktavikāra)

貧血(Raktālptā)

貧血(Pāṇḍu)

上行性-下行性出血性疾患(Adhoga-urdhvag raktapitta)

乳汁分泌不全(Stanyakṣaya)

顔色の異常(Varṇavikāra)

掻痒症(Kaṇḍū)

皮膚病(Carmavikāra)

外傷による消耗(Kṣatakṣīṇa)

創傷(Vraṇa)

外傷性潰瘍(Sadyovraṇa)

潰瘍(Kṣata)

関節リウマチ(Āmavāta)

多尿症候群(Prameha)

膿尿(Pūyameha)

ピッタ性の多尿症候群(aittikameha)

排尿困難(Mūtrakṛcchra)

口渇(Tṛṣṇā)

精液減少(Śukrakṣaya)

精子尿症(Śukrameha)

【薬用部位】

【用量・用法】
根の粉末1-3g


【含有化合物】
Glycyrrhizin

Prenylated biaurone

Licoagrone

7-acetoxy-2-methyl-isoflavone

7-methoxy-2-methylisoflavone

7-hydroxy-2-methyl isoflavoe

4-methyl coumarin

Liqcoumarin

Isoflavone

Glyzaglabrin (7,2’-dihydroxy 3’,4’ methylenedihydroxy isoflavone

Quercetin

Quercetin-3-glucoside

Kaempferol

Astragalin

Liquiritigenin

Isoliquiritigenin

Flavanone rhamnoglucoside

Chalcone glucosides

Trans-isoliquiritigenin-4-D-glucopyranoside (isoliquiritin)

Trans-isoliquiritigenin-4-D-glucopyranoside (neoisoliquiritin)

Licuraside

Liquiritoside

Rhamnoliquiritin

Triterpenoid

Liquoric acid

Licoflavonol

Glyzarin

Glyzaglabrin

Licoisoflavones A,B

Licoisoflavon

Glycyrin

Sugars

Aspargin

【使用例(āmayikaprayoga)】

内服)
・若返り、ことに知能を伸ばしたい時はカンゾウの粉末を牛乳と一緒に与えると良い

・覚醒と知能を増したい場合は茶匙半分のカンゾウとマンドゥーカパルニーを摂ると良い

・授乳中の母親に乳汁分泌を亢進させるためにカンゾウの粉末を牛乳と混ぜて砂糖を入れて飲ませると良い

・アルカリによる化学熱傷に対してカンゾウをギーと混ぜたものが緩和する

・カンゾウの粉末10gにギーと蜂蜜を混ぜて牛乳で飲ませると男性を性的に強くする

・出血性疾患または喀血に対して甘草と白檀の粉を牛乳に混ぜたものを与えるか、カンゾウのペースト10gを与えるか、カンゾウと蜂蜜を混ぜたもので吐法を行うと良い。

・嗄声の患者にはパーヤーサ(ライスプディング)をカンゾウを使って作ったものにギーを混ぜて与えるとカンティヤ(声を良くする作用)として働いて良くなる。

・嗄声や咽頭痛に対してカンゾウ粉末茶匙半分を同量のギーと砂糖と混ぜて与えると良い

・心臓病にはカンゾウとカトゥカのペーストを砂糖水で与えると良い。ごま油でカンゾウを煮て蜂蜜を混ぜたものを浣腸すると良い。

・ギー640gにカンゾウのペースト80gとアーマラキーの搾り汁10.24リットル混ぜて煮て作ったものはピッタ性のてんかんに良い。

・カンゾウを冬瓜の搾り汁で撞いたものを3日間飲むとてんかんに良い。

・吃逆に対してカンゾウに蜂蜜もしくは長胡椒を混ぜたものにきめの細かい砂糖を混ぜて点鼻すると良い

・ラサダートゥの減少による口渇にはカンゾウの煎じ液が良い

・貧血にはカンゾウの煎じ液もしくは粉末を蜂蜜と共に摂ると良い

・カンゾウとデーワダールとキュウリの種子を米の研ぎ汁とまぜて飲むと尿閉に良い

・カンゾウのペーストとサフランに水を加えてヤシ糖も入れて一晩置いて朝に濾したものを飲ませると全ての尿路疾患に効く。

・尿路感染症に対して茶匙1杯のカンゾウを1カップの牛乳で煮て飲むと良い

・気管支喘息の発作に対してカップ1杯のカンゾウ茶を作って5滴のマハーナラヤンオイルかガーリックオイルと混ぜたものを10分おきに茶匙1杯ずつ飲むと気管支拡張作用がある

・ワータ優位の痛風に対して山羊乳にその半量のごま油と10gのカンゾウを混ぜたものを与えると良い

・精巣腫大に対してカンゾウをごま油で煮たオイルで油剤浣腸をすると良い

・機能性子宮出血に対してカンゾウ10gと砂糖10gを混ぜたものを米の研ぎ汁で撞いて飲ませると良い

・多くの皮膚病と白帯下に対してカンゾウ茶が有用である

・ワータによって胎児または乳児の成長が遅延しているときにはカンゾウと砂糖とガンバーリを牛乳で煮たものを与えると良い

・偏頭痛にはカンゾウと蜂蜜を混ぜたものを点鼻すると良い

・カンゾウ1gと附子250mgを細かくなるまで撞いて辛子の粉を混ぜたものを点鼻すると全ての種類の頭痛に良い

・蕁麻疹にはカンゾウと砂糖を混ぜたものを与える

・尿閉によるウダーワルタ(気の上衝)には砂糖、サトウキビジュース、牛乳、干し葡萄、カンゾウを与えると良い。

・風邪を引いて咳痰が出る時はカンゾウとマハースダルシャンを茶匙半分ずつ飲むと良い

・悪心、嘔吐に対して茶匙1杯のカンゾウと茶匙半分の赤サンダルウッドを半カップの牛乳と共に与えると良い

外用)

・カンゾウのペーストにニームの葉を混ぜたものは創傷の浄化(消毒)に働き、カンゾウのペーストにごま油とギーを混ぜたものは創傷治癒を促進する

・クシャーラ(アルカリの一種)を塗布した後でギーとカンゾウを混ぜたものを痔疾に貼ると良い

・丹毒に対してギーを作る時に浮いたカスと冷えた牛乳と甘草またはパンチャワルカラの煎じ液を混ぜたものを患部に振りかけると良い

・バッラータカとの接触により腫れた皮膚にはヤシュティーマドゥタイラと牛乳とバターを混ぜたペーストを塗ると良い

・怪我による外傷が痛む時、温めたギーにカンゾウを混ぜたものを局部に塗ると良い

・痔瘻にはヤシュティーマドゥタイラを振りかけると良い

・若白髪の治療と予防にはヤシュティーマドゥタイラが使われる

・瞼を乱切してカンゾウの煎じ液か白檀を牛乳で煮たものをふりかけ、カンゾウとアーマラキーを入れた薬用風呂に入るとピッタを緩和し視力低下に良い。

・角膜混濁に対しマクシク、カンゾウの抽出物、ビビータキーの種、岩塩、この4種類のうちどれか一つを蜂蜜と混ぜて洗眼すると良い。

・ピッタ性の耳の病気には干し葡萄とカンゾウを牛乳で煮たものを耳に詰めると良い。

・消耗性疾患(肺結核を含む)の人が頭、脇、肩を痛がった場合、牛乳とカンゾウの煎じ液をその部位に振りかけると良い

・吃逆に対してヤシュティーマドゥと蜂蜜を混ぜてアワピーダカ(浄化用)ナスヤ(点鼻)をすると良い

【処方例・主な適応】

ヤシュティーマドゥワーディタイラ(Yaṣṭīmadhuvādi taila)・脱毛、髪の病気

ヤシュティヤーディカシャーヤ(Yaṣṭiyādi kaṣāya)・血性下痢、過多月経

ヤシュティーワーサーディカシャーヤ(Yaṣṭīvāsādi kaṣāya)・黄疸

マドゥカーディグルタ(Madhukādi ghṛta)・ラクタ性腹部腫瘤、外傷による衰弱

【注意・禁忌】
・1日10〜45g摂取するとレニンアルドステロン系をブロックして高血圧となり、心電図変化を起こす。

・インポテンツの男性、新生児を養育している母親、フロセミド(利尿剤)を使用中の患者は急性腎不全、悪心、嘔吐、腎結石を発症する恐れがあり、低カリウム血症をきたしやすいので注意を要する。

・胆嚢炎、筋緊張亢進、重篤な腎不全、浮腫、うっ血性心不全にはカンゾウは禁忌である。

・大量摂取すると重度の高血圧、不整脈、心筋症、心停止、うっ血性心不全、ステロイド中毒になる恐れがある。

【1行まとめ】

目髪呼吸器皮膚喉に良い増精若返り解毒向知性薬で、天然のステロイド剤風味生薬


【臨床小話】

漢方でもあらゆる処方に解毒目的で入れられている上品ですが、漢方で用いられるのは主にウラルカンゾウ、アーユルヴェーダはスペインカンゾウです。漢方では摂り過ぎた場合の副作用として偽性アルドステロン症(血中のアルドステロンが増えていないのに増えたかのような症状を呈する病気。高血圧、むくみ、筋肉痛、脱力、倦怠感、こむら返り、麻痺、頭痛、悪心、嘔吐、口渇、動悸、食欲低下、赤褐色尿、労作時呼吸困難などを呈する)が有名なので飲み過ぎに注意なのと漢方を飲んでいないか、その処方中に甘草は含まれているかどうか処方・服用前に確かめる必要があります。

ワータとピッタの異常には非常に良く効いて下げてくれますが、メインドーシャやサブドーシャにカファのある人か、カファドーシャが悪化しているときに多めのカンゾウを摂るとむくみなどの副作用が出やすい印象です。

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