43)ワチャー(Vacā)(温辛)(ショウブ)

☆ワチャー全体

☆ワチャーの花と葉

☆ワチャーの新鮮根

☆薬用部位であるワチャーの乾燥根

【学名】
Acorus calamus Linn.

【科】

ショウブ科(Acoraceae)

【亜種】

バーバプラカーシュによるとワチャーには4種類あるとされている。

1)vacā (Acorus calamus)(ショウブ)

2)hemavati/pārsīka vacā/śveta vacā(Iris germanica)(ドイツアヤメ/ジャーマンアイリス)

ジャーマンアイリス↑ よく庭園で見かけますね。

3)mahābharī vacā (Alpinia galanga) (ナンキョウ)

4)dvīpāntra vacā (Smilax china)(サルトリイバラ)

その根

まあ、でも普通に臨床で使われているのは1)のワチャーです。

【同義語・異名】

アルナー(Aruṇā):赤みがかった茶色の半水生の薬草

アティラー(Aṭilā):毛様の構造を持つ

バドラ(Bhadra)

ブータナーシャニー(Bhūtanāśanī):悪意から救済する/病気を起こす微生物を滅する

ボーダニーヤー(Bodhanīyā):意識を呼び覚ます

ゴーローミー(Golomī):根茎は下側の表面に毛のような構造を含む

ジャティラー(Jaṭilā):ワチャーの根茎は毛が生えている

カルシャニー(Karuṣaṇī):体重を減らす

クシュドラパトリー(Kṣudrapatrī):葉は線状で長い

ローマシャー(Lomaśā):毛様の構造を持つ

ローマシー(Lomaśī):ワチャーの根茎は毛のよう

マンガルヤー(Maṅgalyā):縁起が良いとされている

ラクショーグニー(Rakṣoghnī):微生物を殺す/病気から守る

シャドグランター(Ṣaḍgranthā):根茎は多くの節がある

シャタパルビカー(Śataparvikā):根茎は多くの節がある

スマーラニー(Smāraṇī):意識消失した人がいたらこの薬を使うと意識を回復する

シューラグニー(Śūlaghnī):腹部疝痛を和らげる

スワラール(Svarālu):声を良くする

Sweet flag(英名)

ウグラガンダー(Ugragandhā):強烈な染みるような匂いを持つ

ウグラー(Ugrā):強烈な染みるような匂いを持つ

ビジャヤー(Vijayā):病を克服する

菖蒲(和名)

【ガナ/クラ(古典における分類)】
ガナ)
チャラカ: virecana(瀉下薬), lekhanīya, arśoghna(痔疾治療薬), tṛptighna(飽食治療薬), āsthāpanopaga,(煎じ液浣腸補助薬) śītapraśamana(悪寒治療薬), samjñāsthāpana(気付け薬), tiktaskanda(苦味薬グループ), śirovirecana,(頭部浄化薬)

スシュルタ:Pippalyādi, vacādi, mustādi, Ūrdhvapraśamana

ミシュラカ:sugandhāmalaka(良い香りがする薬+アーマラキー)

クラ)
sūraṇakula


【ラサ(味)】
辛苦

【グナ(性質)】
軽鋭粗

【ヴィールヤ(効力)】

温性

【ヴィパーカ(消化後味)】

【プラバーワ(特異作用)】

向知性作用(平たく言うと頭を良くする)

【ドーシャへの影響】
ワータカファシャーマカ(ワータとカファを緩和する)

ピッタワルダカ(ピッタドーシャを悪化させる)


【スロトガーミトワ(経路・臓器・組織行性、親和性。特に作用する部位のこと)】
ドーシャ: ワータグナ、カファグナ
体組織(ダートゥ):マッジャー

老廃物(マラ):尿、便

スロータス:マノワハスロータス(心の通り道)

臓器: 胃、口、心臓


【カルマ(作用)】

・若返り作用(Rasāyana)

・向知性作用(Medhya)

・鎮静作用(Śāmaka)

・記憶力向上作用(Smaraṇaśaktivardhana)

・意識回復作用(Sanjñāsthāpana)

・抗てんかん作用(Ākṣepaśamana)

・体力知能向上(Bala buddhivardhana)

・言語/発話能力向上(Vak śakti vardhana)

・知覚回復作用(Vedanāsthāpana)

・精神異常を緩和する(Manodoṣahara)

・ワータドーシャを緩和する(Vātaghna)

・解熱作用(Jvaraghna)

・消化力向上(Dīpana)

・食欲を亢進させカファを排泄する(Tṛptighna)

・痔疾を治す(Arśoghna)

・抗寄生虫作用(Kṛmighna)

・催吐作用(Vāmaka)

・緩下作用(Anulomana)

・煎じ液浣腸補助作用(Āsthāpanopaga)

・鎮咳作用(Kāsaghna)

・呼吸困難を治す(Śvāsahara)

・声と喉に良い(Kaṇṭhya)

・声に良い(Svarya)

・抗炎症/抗浮腫作用(Śothahara)

・掻爬/減量作用(Lekhana)

・脂肪組織除去作用(Medohara)

・体組織減少作用(Dhātukṣīnatākara)

・感染防止作用/微生物嫌忌作用(Rakṣoghna)

・殺虫/抗微生物作用(Jantughna)

・利尿作用(Mūtrajanana)

・尿浄化作用(Mūtraviśodhana)

・降圧作用(Raktabhāraśāmaka)

・発汗作用(Svedajanana)

・分娩促進作用(Garbhāśaya sańkocaka)

【適応(ローガグナタ)】
記銘力低下(Smṛtihrāsa)

言語障害(Vāgvikṛti)

精神異常(Unmāda)

てんかん(Apasmāra)

精神病(Mānasaroga)

小児の病気(Bālaroga)

小児のけいれん(Skandāpasmāra)

耳鳴(Karṇanāda)

耳痛(Karṇaśūla)

外耳道真菌症(Kṛmikarṇa)

鼻炎(Pratiśyaya)

口腔疾患(Mukharoga)

喉の腫れ(Kaṇṭhaśotha)

嗄声(Svarabheda)

歯牙発生異常(Dantodbheda janya vikāra)

トリドーシャ性発熱(Sannipāta jvara)

衰弱(Daurbalya)

カファ性心疾患(Kaphaja hṛdroga)

高血圧(Uccha raktacāpa)

悪化していく炎症/浮腫(Vṛddhijanya śotha)

消化力低下(Agnimāndya)

食欲不振(Aruci)

便秘(Vibandha)

アーマ性消化不良(Āmājīrṇa)

腹部疝痛(Udaraśūla)

鼓腸(Ādhmāna)

腹部膨満(Ānāha)

下痢(Atisāra)

過敏性腸症候群(Grahaṇī)

痔疾(Arśā)

咳嗽(Kāsa)

ワータカファ性咳嗽(Vātaślaiṣmika kāsa)

皮膚病(Tvagvikāra)

肥満(Medoroga)

寄生虫疾患(Kṛmiroga)

頭部疾患(Śiroroga)

(蓄膿症による)慢性頭痛(Sūryāvarta)(古典には日の出と共に始まり正午まで増強し正午から軽減し始める頭痛、とあるものの病気の原因は頭部の異常カファドーシャであり頭部はカファの座でもあり臨床的には副鼻腔炎に伴う頭痛が近い。)

片頭痛(Ardhāvabhedaka)

ワータ性疾患(Vātavikāra)

片麻痺(Pakṣāghāta)

後弓反張(Apatantraka)

変形性関節炎(Sandhivāta)

関節リウマチ(Āmavāta)

尿路結石(Aśmarī)

排尿困難(Mūtrakṛcchra)

尿閉(Mūtrāghāta)

難産(Kaṣṭaprasava)

月経困難症(Kaṣṭārtava)

中毒(Viṣa)

鼠咬傷(Mūṣikaviṣa)

【薬用部位】
根茎


【用量・用法】
粉末:250-500mg

吐法をするには:1-2g


【含有化合物】
asarone

β-asarone

Calamenol

Calamine

Calamenone

Eugenol

Methyl eugenol

α-pinene

Camphene

Fatty acids

Calamol

Acoradin

Azulene

Acolamone

Isoacolamone

Sugars

Acorin

Calameon

Calamusenone

Luteolin-6,8-C-diglucoside

Acoramone

As arylaldehyde

β-asarone

Epoxyisoacoragermacrone

【使用例(āmayikaprayoga)】
内服)

・てんかん、アダムスストークス症候群(アパタントラカ)、麻痺においてワチャーを蜂蜜と一緒に、もしくは牛乳と一緒に長期間投与すると良い。集中力が増す。

・ワチャーの粉末を塩入りの微温湯で与えると咳嗽、呼吸困難の人の吐法によい。

・鼻炎、咽頭痛、咳にはワチャーの煎じ液を与えると良い

・ワチャーの煎じ液は過敏性腸症候群、慢性下痢、腹部膨満、腹部疝痛、寄生虫疾患にも良い。

・ジャヤパーラ(Croton tiglium)の中毒の場合はワチャーの煎じ液を飲料として飲ませると良い。

・てんかん、アダムスストークス症候群の場合、プラーナグルタをブラーフミーの搾り汁、ワチャー、クシュタ、シャンカプシュピーと共に煮たものを与えると良い。

・若返りの為にはワチャーと100回煮たギーを定期的に摂ると良い。ワチャーをギーまたは牛乳または胡麻油と加工すると若返りに良い。

・新生児の頭を良くするにはワチャーの粉末を蜂蜜と共に1日2回、半年舐めさせ続けると良い(注:インドでは1歳未満の児へのボツリヌスとか全く気にしないで蜂蜜を投与しているのですが、過剰に清潔な日本では禁忌です。まあ、ただ、頭位が最も育つのって生後半年の間なんですけどね…。日本風にアレンジするならアヌパーナ(運び屋)としての力は非加熱蜂蜜に劣りますが水飴やメープルシロップなど幼児が喜ぶ甘い蜜に混ぜるしかないのかな、と。)

 ・腹部疝痛においてワチャーとサウワルチャラとヒングとアティビシャとハリータキーとインドラヤヴァを与えると良い。

外用)

・ワチャーとサルシャパのペーストを患部に貼ると浮腫に良い

・痔疾においてごま油を塗ってからワチャーとシャタプシュパの入った温かい小袋で患部を温めると良い。

・慢性頭痛(スーリヤーワルタのこと。太陽の動きと共に変動する前頭〜側頭部の頭痛。)に対してはワチャーと長胡椒に蜂蜜を混ぜたものの点鼻が有用である。

・ワチャーの煎じ液にカルプーラを混ぜたもので洗うと外傷と潰瘍の浄化に良い

・肥満に対してワチャーの粉末をウドワルタナ(強めの圧を加えたマッサージ)に用いると余剰な脂肪を減らすのに良い

・ロドラ、コリアンダー、ワチャーのペーストを尋常性ざ瘡に塗るとニキビの除去に良い。

【処方例・主な適応】

マーナサミトラワタカ(Mānasamitra vaṭaka)・精神異常、健脳作用

ワチャーディチュールナ(Vacādi cūrṇa)・カファ性の腹部疝痛

ワチャーディタイラ(Vacādi taila)・蜂窩織炎

ワチャーラシュナーディヤタイラ(Vacālaśunādya taila)・耳の病気

マハーパイシャーチカグルタ(Mahāpaiśācika ghṛta)・知能向上、健脳作用

サーラスワターリシュタ(Sārasuvatāriṣṭa)・精神異常、記銘力低下

【注意・禁忌】
FDAはワチャーに含まれるβ-asaroneに発がん性があるので人への使用は安全ではないとしています。

副作用として、消化力低下、胃腸炎、出血性下痢に引き続いて起こるしつこい便秘が報告されたことがあります。長期連用は遺伝毒性があります。

ピッタドーシャが悪化している人に投与すると頭痛、嘔気嘔吐、低血圧、徐脈を呈することがあります。

β-asaroneを含み通経作用があるため、授乳中の母親は避けた方が良く、妊婦には禁忌です。

降圧作用があるため、西洋医学の降圧剤との併用はしないほうが良いです。

温性がありピッタを増やすことから出血を増す可能性があります。出血性疾患がある場合と、予定手術の2、3週間前からは使用すべきではありません。

→ワチャーの副作用が起きた時は、

・フェンネルシード

または

・レモネード(レモン汁10ml+砂糖10g+水250ml)を飲むと良い。

【修治】

チャラカとスシュルタ双方にワチャーの修治法は書かれていませんが、チャクラダッタとバイシャジュヤラトナーバリーの2冊にはワチャーの修治法が書かれています。

  • 牛の尿で煮る→マハームンディ(Sphaeranthus indicus)の煎じ液で煮る→パンチャワルラヴァの煎じ液で煮る→その後Surabi toyaというシナモン、ムスタ、バラー、クシュタ、ウシーラ、テージャパトラの蒸気で蒸す
  • (南インド変法)牛乳もしくはヨーグルトの上澄液に一晩漬ける→お湯で洗って乾かして保存。

【1行まとめ】

言語障害、意識障害、統合失調症にも良い大小虫殺しな温性向知性薬で痩せ薬


【臨床小話】

わたしは単品で使ったことはありませんが通経作用を逆手に取って微弱陣痛などの分娩遷延といった産科領域で用いたり、生まれた児を賢く、脳神経系の発達を促すために向知性薬として舐めさせたり、耳痛、鼻炎などに使われたり寄生虫や微生物殺し、感染症にも良いので小児科でも良く用いられる生薬です。

 他の向知性薬と違って「言語・発話能力向上」作用があるので、頭部外傷や脳卒中後の言語障害ですとか、言葉の発達の遅れた児童に使うと良いのではないかと思います。

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